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名古屋高等裁判所 昭和42年(行コ)1号 判決 1967年3月16日

控訴人 林源一 外二名

被控訴人 農林大臣 外一名

訴訟代理人 松崎康夫 外一名

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

事  実 <省略>

理由

第一、控訴人の農地売渡処分取消請求について

別紙目録記載の土地がもと控訴人等の所有であつたところ、自作農創設特別措置法第三条により昭和二二年一二月二日政府に買収せられたこと、右土地が京都農政局長の認許によつて昭和二八年一二月一六日稲沢都市計画事業稲沢土地区画整理の地区へ編入されたこと、及び被控訴人愛知県知事が昭和三六年一一月二日農地法第三九条により右土地を耕作者に売渡したことは、いずれも当事者間に争いがない。

控訴人等は右土地が稲沢土地区画整理事業の区域に編入されたことを以つて農地法第八〇条第一項による農林大臣の認定があつたものとし、これを前提として被控訴人愛知県知事の売渡処分の効力を争うのであるが、農政局長が農地法第七八条所定の土地につき土地区画整理事業地区編入の認許をしても、これを以つて直ちに農地法第八〇条第一項による農林大臣の認定があつたものとすることはできない。蓋し土地区画整理事業地区編入によつてその土地が当然に農地性を失うものではないからである。従つて右認定がない以上、被控訴人愛知県知事が農地法第三九条の規定により右土地を耕作者に売渡しても何等違法ではない。

控訴人等は「稲沢土地区画整理事業によりその地域内の土地は三割減歩され、その減歩によつて生じた土地を以つて道路、公園等を建設し、或は宅地として売却するため保留地とされているから、本件土地の三割もまた非農地化している。従つてこれについては当然農地法第八〇条第一項の認定があつたものと解すべきである。仮りに然らずとするも右認定をなすべきである」と主張するが、仮りに所論のとおりであるとしても、本件売渡処分の対象となつた土地は右減歩された三割の土地ではなく、残りの七割の土地であることは弁論の全趣旨によつて明らかである。そしてその七割の土地が右売渡処分当時非農地化していたことは控訴人等において何等主張しないところである。土地区画整理の結果従来農地であつた土地もやがて宅地化するであろうことは想像に難くないが、将来宅地化する可能性が強いということだけで当然その土地が農地法第八〇条第一項の認定の対象となるものではない。従つて本件土地については農林大臣が当然右認定をなすべきであるのにこれを怠つている間に、被控訴人愛知県知事が売渡処分をしてしまつたという違法はない。

なお控訴人等は、被売渡者が買受適格者でないと主張しているが、農地を買収された旧所有者は農地法第八〇条第一項の認定のあつた土地(農地法第八〇条第一項の認定をなすべき土地を含むと解する説もある)に対する売渡処分についてのみその取消を求める訴の利益を有するものであるから、右認定がない土地(又は認定せらるべきでない土地)の売渡処分については、被売渡人が買受適格を有していたか否かは控訴人等にとつて何等関係のないことであり、買受人の非適格性を理由として右売渡処分の取消を求めることができないことは行政事件訴訟法第一〇条第一項によつて明らかである。

よつて控訴人等の本件土地売渡処分の取消を求める請求は失当として棄却を免れない。

第二、控訴人等の訴願裁決取消請求について

控訴人等が被控訴人農林大臣に対しその主張の如き訴願をなし、同被控訴人がこれを却下する旨の裁決をなしたことは当事者間に争いがない。

控訴人等の右裁決取消の請求は裁決そのものに存する違法を主張するのではなく、右愛知県知事の売渡処分の違法を理由とするものであることは控訴人等の主張自体によつて明らかである。<証拠省略>によれば右訴願に対する裁決は、控訴人等に右売渡処分の取消を求める利益(権利)がないことを理由として右訴願を却下していることが明らかであるから、右裁決は実質的には訴願棄却の裁決と同様である。よつてかような場合には行政事件訴訟法第一〇条第二項の適用があり、原処分の違法を理由として裁決の取消を求めることができないものと解するを相当とする。従つて原処分の違法を理由として右裁決の取消を求める本訴請求は失当として棄却を免れない。

なお、<証拠省略>によれば、右訴願には本件農地の売払を求める申請を包含し、その部分は本件土地が現在国有地でないこと及び国有地売払申請が訴願事項に該当しないことを理由として却下されていることが認められるが、農林大臣に対する農地売払の申請を訴願を以つて請求し得ないことは、旧訴願法その他の法令にこれを認めた規定がないことに徴して明らかであり、又仮りに右訴願は形式上は訴願という名目になつているが実質は売払申請であると解しても、右申請当時本件土地は国有地でなくなつているのであるから、被控訴人農林大臣が右申請を却下したことは当然であつて、右裁決に何等違法はない。よつて右裁決の取消を求める本訴請求も理由がない。

第三、控訴人等の被控訴人農林大臣に対する土地売払義務の確認請求について

裁判所は行政官庁に対し特定の行政処分をなすべきことを命じ或はその義務があることを確認する裁判をすることはできない。(極めて特殊な場合にこれを肯定する説があるが、本件はその場合に該当しない)から右訴は不適法として却下を免れない。

第四、結語

以上の理由により控訴人等の第一、第二の各請求は失当であり、第三の訴は不適法であるから、右認定とほぼ同趣旨(原判決の訴願裁決取消の請求棄却の理由はやや具体性を欠く嫌があるが)の下に控訴人等の第一、二の請求を棄却し、第三の訴を却下した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。よつて民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条、第九三条第一項本文を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 神谷敏夫 松本重美 吉田成吾)

目録<省略>

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